『  彼女の肖像  ― (1) ―  』

 

 

 

 

ある画家の回顧談

ええ 私は実際にその男性に会ったことはないんです。

人づてに話を聞いただけで ・・・ でも なぜかとても心に残って。

手を尽くして一枚だけ彼女の写真を見ることができました。  

はたしてご本人の雰囲気がだせたかどうか 今は確かめる術もありません。

 

せめて絵姿でも ・・・と思い 勝手に描いてみたのですが ―

 

 

 

 

§  ジョー

 

 

 

その頃 どこの町にも大抵一軒や二軒、 そんな場所があったものだ。

たいていは町外れだったり 海に近かったり ― ようするに人々の通行があまりないところに

ひっそりと存在するのが常だった。

 ― そして

「 暗くなってからは 近くに行くものじゃないよ ! 」  とか

「 言う事を聞かないと 連れてゆくからね! 」 とか ・・・・ 年配のヒトやら親に戒められたものだ。

 お化け邸 または 幽霊屋敷 ・・・ 似たような名称が贈呈されているのも どこでも同じだろう。

 

 ・・・ それらはいつの間にか姿を消しやがては人々の記憶からも 消えてゆく・・・

 

 

  肝試しに行こうぜ!  ・・・ 誰が言い出したのか 誰にもわからなかったが。

いつもの連中が ― ワルガキ隊の別名もあったが ― 自然と集まり

わいわい言って固まって歩いてきて気がつけば お化け邸 の門の前に立っていた。

そこは郊外のほとんど山の中に近い場所で、もう少してっぺんまで登れば はるかヨコハマの港が

一望できるような所だった。

「 ふ〜ん ・・・ ここが そうか〜 」

リーダー格のサブが 門扉によじ登り中を見回している。

「 おばけやしき ってなに〜〜 」

いちばんチビのミソッカス、リーザがちょこちょこやってきてアイアンレースの門に掴まる。

「 ねえ おばけやしき ってなに〜〜! 」

「 あのね、 おばけ達のおうち ってこと。 」

「 ふうん ・・・ お家なのかあ〜〜 おばけさ〜〜ん こんにちわ〜〜〜 」

怖いもの知らずの幼女は 大きな声で中に向かって呼びかけた。

「 おい〜〜 チビ、うるせ〜よ!  ジャマだって言ったろ〜〜 」

「 りーざ じゃまじゃないも〜〜ん !!  チビ でもないも〜〜ん!! 」

「 こっち おいで。 」

別の手が幼女を優しく 抱き取った。

「 !?  あ ・・・ ジョー 〜〜〜 うん♪ 」

彼女は 抱き上げてくれた少年の顔を確かめると、今度は彼にぺたりと抱きついた。

「 ジョー〜〜♪ 」

「 ほら 大人しくしてなって ・・・  あ 入るの サブ? 」

「 あったりめェ〜よ!  あ 開くぜ〜〜 」

 

   キ キキキキィ −−−− ・・・・

 

ガタガタ揺らせば 凝った門扉は耳障りな音と共に少しだけ隙間をつくった。

「 カギ、壊れてら。 ・・・ よ・・・っと! おい 皆 ついてこい! 」 

強気なのは先頭だけで あとは一塊になってそう・・・っとその隙間から入ってゆく。

中は草ぼうぼう、雑草や枯れ草が子供たちの腰よりも高く生い茂っている。

「 ここ ・・・庭? 」

「 らしいね 」

「 だれもいないの? 」

「 当たり前だろ〜 だから お化け屋敷 なんじゃん! 」

「 ふ〜〜ん ・・・ 」

「 あ 玄関ってこっちかあ〜 」

「 ・・・ 玄関に屋根がある〜〜 」

「 ヘンなウチだね 」

「 おばけのウチだから ヘンなんじゃん? 」

子供たちは 古風な屋根つきのポーチまでやってきた。

「 ・・・ こんにちは ・・・ 」

「 バカじゃね〜〜〜?  誰もいないってば。 」

「 ドア ・・・ 開く? 」

「 んん 〜〜〜〜   ジョー、ヒロ、手伝え! 」

「「 う うん ・・・ 」」

リーダー格の腕白に呼ばれて 茶髪と黒髪の少年がおずおずドアの前まで出てきた。

「 鍵 かかってるんでない? 」

「 ・・・ サブ。 他所の家に勝手に入っていいの? 」

「 い〜から一緒に押せ!  ここも壊れてるっぽい〜〜  ほらあ! 」

「「 う うん ・・・ 」」

「 皆もやれよ〜〜  ほら せ〜〜の〜〜〜っ! 」

「「  せ〜〜〜の〜〜〜〜〜・・・!   」」

子供たちの手が 一斉にぼろぼろのドアを押した。

 

     ギシ ・・・・ ギ ・・・ ・・・・・   !

 

「「「  開いた 〜〜〜〜〜 !!!  」」」

 

 

 ゴト ゴト ・・・ ゴトゴト ・・・

ホコリだらけ廊下を 子供たちは固まってそろそろと進んでいった。

「 こ こら ・・・ ヒロ〜〜 そんなにくっつくなってば! 」

「 ごめ ・・・  サブ でも〜〜 」

「 ジョー〜〜 お手々にぎってェ〜〜〜 」

「 うん いいよ。 こっちおいでリーザ 」

「 うん♪ 」

「 あ〜〜〜 リーザ ずるい〜〜 」

「  う ?   シッ !  ・・・ だ 誰か  いる・・・? 」

突然 先頭の坊主が命令をした。

「「  ・・・・ え !?!? 」」

全員が < 固まった >   いや、怖すぎて悲鳴も上げられなかった・・・というところか ・・・

「 ・・・ な なに ・・・サブ ・・・? 」

「 どこ ・・・? 」

「 ほ  ほら ・・・ あそこ ・・! 」

彼が指差す前方には  ―  ぼう ・・・・っと白い人影が浮かび出ている ・・・風にみえた。

「 !!! お おばけ ?! 」

「 きゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜 」

「 うわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜 !!! 」

一人が悲鳴をあげると  ―  あとはもう連鎖反応、パニック状態となりなにがなんだか夢中で

子供たちは ダダダダ ・・・っと我先に駆け出した。

 

  「  に 逃げろ ォ 〜〜〜〜〜   

 

 ― ただ一人。  少年が 白い影 に釘付けになっていた。

 

「 ・・・ こ  ・・・ これ ・・・? 」

彼は その影の前から動くことができない。 脚はがたがた震えているのだけれど踏み出せない。

セピアの瞳が ぼう〜っと浮かぶ影 から離れられない。

「 こ  れ ・・・・    なに ・・・? 」

 

   コツ ・・・・    やっと一歩 踏み出せた。  一歩 近づけた。

 

近くなってみると すこしはっきり見えてきた。  なんとなくぼ〜っとしているが揺れてはいない。

「 ・・・ あ れ?  ・・・ オバケ とはちがう ・・・ かも? 」

もう一歩。  そして 彼は目の前の 白い影 を  しげしげと見上げた。

「 ・・ オバケ じゃない ・・・!  これ ・・・  」

 

     ―  それは  白いドレスを着た少女の絵姿だった。

 

「 ・・・ 絵 かあ ・・・ 可愛いなあ ・・・ このコ ・・・ 」

正体がわかれば恐怖心はふっとび、 好奇心だけがむくむくと沸いてくる。

彼は じ・・・っと少女を見詰める。  絵の中の可愛い女の子をじっくりと眺める。

「 ふうん ・・・? ぼくよりも年上っぽいな。  でもまだ大人じゃないよな〜

 綺麗な髪だね、何色っていうのかな。  クリーム色っぽいけどもう少し薄い色で

 でも金色も入ってる??  この瞳は 青 ともちがうな〜 ちょびっと緑色も

 入ってる ・・・ キレイ ・・・  ふうん ・・・・ 」

彼はもうその絵に吸い寄せられしげしげと見上げ 小声で話し掛けたりしている。

「 きみ さ。  ここに住んでいたのかな〜〜〜   あ わかった〜〜

 この絵を描いたヒトがここに住んでた? きみはモデルになっただけ かい 」

「 ・・・・・・ 」

「 ねえ どうしてそんなに悲しそうな顔なの?  きみって笑ったらもっともっとキレイなのに・・・

 ねえ 笑ってごらんよ? 」

 

    <  いっしょに 来ない ? >

 

「 !? え!?  だ だれ? 」

突然 小さな声が少年の心に響いてきた。

「 だれも ・・・ いないのに  ・・・  あ  もしかして  きみ? 」

再び 絵を熱心に見上げたかが もうあの声は聞こえてこなかった。

「 ・・・ きみ ・・・ だったの? 」

「 ・・・・・・ 」

< 白い服の少女 > は ただだまってセピアの髪の少年に視線をあてていた。

 

 

   ぱたぱた   ・・・ パタパタ ・・・

 

玄関のほうからためらい勝ちな足音が ゆっくり ・・・ いや こっそり近づいてきた。

「 ・・・  ジョー ・・・・? 」

開け放しのドアから 半分だけ顔が覗き込んだ。

「 ・・・ ジョー ・・・?  いきてる?  いきてたら ・・・ おへんじ、 して ・・・ 

ドアの下の方に 少女がへばりついているのだ。

「 ・・・ あの ・・・ ジョー ・・・?    あ ??? これ ・・・ 絵 ・・・ !? 」

「 あれ??  リーザ !?  」

やっと茶髪の少年が コチラをしっかりと見てくれた。

「 なんだ〜 リーザってばかくれんぼうかい? 」

「 ちがう〜〜 ジョー −−−−−!   出てこないんだもん ・・・  

 皆 しんぱいしてるよ〜〜 アレは絶対にゆうれいだった、まちがいない! んだって。 」

「 アレ? 」

「 うん さっきここでみた白い影、 ふうわ〜り ふわふわ ・・・ ゆれてたじゃん? 」

「 影じゃないさ。  そう見えただけだよ。 」

「 だって 見たもん! 」

「 ふうん ・・・ そうじゃないんだ。  リーザもようく見てご覧よ?  ほら 」

「 え ・・・だってオバケなんでしょう? 」

「 違うよ、 オバケなんかじゃない。  ほら ・・・ 綺麗なお姉さんの絵 なんだ。 」

「 ・・・ ェ ・・・ だ  だって  ・・ あ ・・・ ほんとだ・・・ 」

幼女はおそるおそる少年の側にやってきた。

「 だろ?  リーザよりずっと大きいヒトだね。 」

「 うん。  ジョーよりも大きいかも ・・・ 」

「 そうだねえ ・・・ ぼくよりお姉さんだね。  綺麗で優しそうなお姉さんだ。 」

「 けど ・・・ この服  ・・・ ヘン! それに 泣きそうだよ、このヒト 」

「 そうかなあ〜 ・・・ キレイじゃないか。 」

「 キレイだけど。 でもこんな服 着てるヒト、いないよ?

 教会に来るヒトだって スーパーであうひとだっても〜〜 

幼女な絵を指して首をかしげている。

絵の中で 少女はレース付きの立ち襟にベルベットのリボンを結び、胸元にも凝った柄のレースが

広がっている。

確かにキレイだが ― なるほど、この服装は少々時代がかっている。

肖像としては半身像で 広がったスカートの裾は描かれていない ・・・ が おそらく膝を

深く覆っているにちがいない。

「 ヘンだよ〜〜 ヘン! 」

「 ― う〜ん   ・・・ あ このヒト、昔のヒトなんだよ! 」

「 むかしのひと? 」

「 うん。 だから ちょっと変わった服、着てるんだ。 」

「 なんで? 」

「 なんで ・・・って ・・・ 」

「 ジョーは なんでこのお姉さんが むかしのひと ってわかるの? 

「 あ〜  そっか。  ほら ・・・ ここ。 見てごらん。 」

「 え〜 ・・・? 」

少年は絵の左下の隅を指した。

「 ・・・ ??? よめないよ〜  むにゅむにゅ〜〜って これ 字? 」

幼女は 目を寄せて絵の隅を見詰めている。

「 あは ・・・ それはね〜 サインだよ。  この絵を描いたひとの名前 さ。

 ぼくにも読めないけど ・・・ そっちじゃなくて  ここ。 

「 ここ?  ・・・ 数 ?  え〜っと??  196× ? 」

「 ぴんぽん。  その時、描きましたってこと。 」

「 ―  今 199×年  ・・・あ  そっか〜 」

「 ね? だから今となちょっと違った服なのさ。  でも ・・・ キレイなヒトだよねえ・・・ 」

少年は改めてほれぼれと少女を見詰める。

「 ウン ・・・  あ  の ・・・ ジョーは さ・・・? 」

「 うん なに? 」

「 あ 〜〜  あの ・・・ ジョーは すき? あの こういうヒトが ・・・ 」

「 うん 好きだよ。  この絵 とっても好きだなあ。 」

「 え  そ そういう意味じゃなくて  ね! 」

「 そういう意味ってなんだい?  もう〜〜 リーザはオマセさんなんだからな〜 」

「 だから!  あの !  そうじゃなくて ・・・ う〜〜〜 

 あ !  アタシも えになったらこんなふうになれる?  そしたら ・・・ ジョー ・・・

 すきになって  くれる?  」

「 えになったら??  なんだい それ?  」

「 う〜〜ん と  えっと ・・・ 」

リーザはやっぱり オチビさん なので上手に表現できないのだ。

 

「 ・・・ ジョー〜〜  りーざーぁ〜〜〜 」

 

だれかの声が遠くからきこえきた。 あの声は あは・・・また叱られるかな・・・ 

「 おね〜ちゃん〜〜〜 !!!  ジョー! リリおねえちゃんがきた!?

 おね〜ちゃん!  こっち〜〜〜 」

ベソかきオチビは たちまち元気になると たたたた・・・っと駆け出した。

 

   ―  コッ !!   絨毯のシワに足がひっかかり転んでしまった。

 

「 わ! ・・・ って〜〜〜 」

「 ほら〜〜〜危ないって!  大丈夫かい? 」

追いかけてきた少年は 慌てて幼女を抱き起こした。

「 ・・・ う  ・・・ うん  あ  でも  いたあ〜〜い 〜〜〜 」

彼女は少年の顔をみるなり ぽろぽろ涙を零しはじめた。

「 どこ、ぶつけたのかい。  オデコ? ひざ?  ちょっと見せて・・・ 

 やあ 大丈夫だよ、どこにも血は出ていないし  」

「 ・・・でも でも  いたぁ 〜〜い 〜〜〜 」

幼女は完全に甘ったれ泣きをはじめた。

「 さあ もう 行くよ?  ・・・ ほらあ〜 泣くなってば ・・・ 」

「 わあ〜〜ん いたい〜〜〜 あるけない〜〜 たてない〜〜 」

ぺたん、と床に座り込んでしまった幼女を 少年は困った顔で眺めている。

「 いたぁ〜〜い 〜〜〜 」

「 ・・・ しょうがないなあ・・・  ほら ・・・ 」

溜息を吐くと 彼はまだ広くもない背を彼女に向け、しゃがんだ。

「 リーザ。 オンブしてってやるよ 」

「 わい♪♪ 」

今 泣いてたカラスは 大にこにこ・・・で少年の背中に張り付いた。

「 よく掴まってろよ 」

「 うん♪  わあ〜〜い ジョーのおんぶ♪ ジョーのおんぶ〜〜〜 」

「 うわ ・・・ おい じっとしてろってば〜〜 」

「 あ ごめん ・・・ 」

彼は多少心許無い足取りで 誰も居ないホコリだらけの廊下を進む。

「 えっと ・・・ こっち、だったっけ? 」

「 うん   ・・・  ジョー  あのね 」

「 うん? なに、リーザ。 」

「 ジョーはさあ  ・・・ 黒くない髪、 すき? 」

「 黒くない髪?  うん どんな色の髪だってキレイな髪はスキさ。 」

「 ふうん ・・・  」

幼女は自分の強情に跳ね返る赤毛をひっぱってみる。

「 ジョー ・・ あのね 」

「 なに  リーザ 」

「 あの ジョーはさあ ・・・ 黒くない目、 すき? 」

「 黒くない目?  うん 何色でも元気な目はすきさ。 」

「 ふうん ・・・ 」

彼女は少年の背中で ぱちぱちぱちぱち〜〜 グレーの瞳を瞬いてみた。

「 ・・・ ね  ジョー  あの ね ・・・ 

「 なんだい りーザ 」

「 あの  あの  ね  ジョーは ・・・ すき?  ・・・その  」

「 ああ あの絵のお姉さんみたいなヒト、 好きだよ。 」

「 あの ・・・ そうじゃなくて  ・・・  あ?  ねえ よんでるよ? 」

「 うん 皆 外で心配してるんだ。 」

「 ううん ううん  外じゃなくて  ・・・ あ あのお姉さんかも ・・・

「 ???  」

「 きこえるよ   いっしょにこない? って!  ねえ ジョーには 」

幼女はガンコに言い張ったが玄関のドアが目の前だ。

「 ああ ほら〜〜玄関のドアだよ〜〜 やっと出口だあ〜〜 」

 

   ドンドン ドン ・・・!  ドアの向こうでは子供たちがさかんに叩いている。

 

「 あ〜〜 ココだってばあ〜〜 ジョー  開けて 」

「 うん。  リーザ ちょっと降りてくれる? 」

「 うん。  あれ? ここのドア ・・・ さっきカギとかかかってた? 」

「 う〜ん ??? ぼくは最後の方に入ったからわからないけど・・・

 サブ ・・・ カギなんかもってなかったよねえ? 」

「 うん。  サブとヒロ君が一緒に どん! って押したらあいたよ。 」

「 だよねえ ・・・ 今 カギ かかってる ・・・ 」

「 え。  じゃ ・・・ でれないのォ〜〜〜 」

「 いや 大丈夫 ・・・ 内側からかかってるんだ。  はずせる ・・・ かな 」

少年は 玄関ドアに取り付いてかちゃかちゃやっている。

「 う〜〜ん ?  リーザ、ここ ・・・ だれかがしめたのかな? 」

「 わかんない〜〜  だってあたし、さいごじゃないもん。 」

「 ・・・ う〜〜 固いな・・・ あ そうだよねえ、ぼく、ケンと一緒に最後に入ったんだった!

 ドアぬけて ・・・ そのまま入ってそれっきり  ・・・ 」

「 ふ〜ん? 

「 ってことは 誰かがわざと閉めた??  誰が???   −−− えいっ! 」

 

  ギチ ・・・   いやな音がしてキィがうごいた。

 

「 あ ・・・ 開くかも・・・ リーザ、 一緒に押して? 」

「 うん! 」

「 せ〜の ・・・ えい !!!  」」

 

      ぎぎぎぎぎ ・・・・     うわあ〜 ドアは外側に取り付いていた数人をなぎ倒した。

 

「 ジョー〜〜〜!! 大丈夫か?! 」

素早く起き上がり擦り剥いた頬をさすりつつ サブが飛んできた。

「 う  うん ・・・ごめん  ・・・ 」

「 そっか〜〜  あ リーザは?  」

「 え?  そこにいないかい?  今 一緒にドアを押してたんだよ? 」

「 ―  お前以外 だれもいないぜ。 」

「 ウソつけ!  あ 先に走って帰ったのかも ・・・ 」

「 駆け出した子供はいないなわ。 」

リリが半ベソで言う。

「 リリ ・・・・  え〜〜 ヘンだなあ ずっと一緒だったんだ 〜 」

ジョーはっきょろきょろ見回し 仲間の子供たちも一様に周辺をさがしてが

幼女の姿は見えなかった。

 ― 多分 抜け駆けの近道でもして先に帰ったんだろう ・・・ と 皆は思った。

 

 

 

「 オバケ屋敷?  ・・・ ああ 山の手の奥の洋館ですか。 」

神父様は あっさりそう言った。

 

夕食当番ぎりぎりの時間に施設にもどり しばらくはわいわいと騒がしい時が過ぎた。

やっと食後の自由時間となり ジョーは宿題をする振りをして図書室へ行った。

時々 神父様が静かに読書をしていることがあるからだ。

はたして神父様は図書室の壁際の椅子で厚い書籍を開いていた。

「 あの ・・・?  」

「 ・・・ ジョー かな? 」

神父様は顔をあげずにそういうと ゆっくりと本を閉じ ―  闖入者に笑顔をむけた。

「 あ ご ごめんなさい、 ジャマして ・・・ あの ぼく 宿題しに・・・ 」

「 なにか話したいことがあるのでしょう?  こっちへおいで。  」

「 あ ・・・ は はい・・・ 」

いつだってお見通しだなあ・・・と ジョーはちょっと照れ臭くなった。

でも このことはちゃんと聞いておかなければならない。

夕食にリーザはいなかった。  でも 女子最年長のリリも寮母さんたちも全然気にしていない。

それとなく女子たちに聞いてみたけど 皆ヘンな顔をした。

「 なに ?  ・・・ 島村君 なに言ってるの? 」

「 おい〜〜 オバケ屋敷ショックかよ〜〜 」

「 !  だって ・・・ !  (  リーザは ・・・! ) 」

 

  ―   誰もが  リーザ の存在を忘れている。 いや 彼女の痕跡すら残っていない。

 

「 !?  だ だって ・・・ リーザは !  」 

ジョーはそれ以上の追求をやめ 口を閉じた。 余計事を言ってからかわれるのはゴメンだ。

 

    いいさ。  あとで神父様に聞いてみる!

 

彼は単独行動が多かったし 仲間付き合いもいい方ではなかったので それ以上

周囲からあれこれ言われることはなかった。

・・・ 要するに ジョーは影の薄い存在だったのだ。

 

 

昼間の冒険の顛末を告白すると、神父様は面白そうな顔で聞いてくれた。

「 ・・・ ごめんなさい。  勝手にヨソの家に入って 」

「 わかっているのならいいです。 もう二度とやってはいけませんよ。

 それで  ・・・ ジョー? なにが聞きたいのかな? 

 ・・・ ああ やっぱり神父様なにもかもお見通しだ・・・

「 あ  あの。 あのオバケ屋敷 って ・・・ 普通の家だったんですか。 」

「 あそこはもとは立派な洋館でしたよ。  ほら ・・・ 山の手地区に異人館があるでしょう。

 その別館の趣で奥の高台に建てられたそうです。 」

「 へえ ・・・ で 今は 」

「 もう何年も前から空家だと聞いています。 

 異人館として保存するには 場所が離れすぎているのでそのままにしてあるのだと。 」

「 あ ・・・ そうなですか  」

「 オバケ屋敷 なんていわれるほど荒れているのですね。 君達みたいに子供が悪戯で

 入り込んで 怪我でもしたら危険です。 市役所の方に聞いてみましょう。 」

「 ・・・ 荒れてる・・・って でも 絵が飾ってあって 」

「 絵? 

「 あ いえ ・・・ その古い家具とかあったな・・・って ・・・ 」

「 そうですか。  とにかく今後は 立ち入り禁止 です。 わかりましたね?  」

「 ― ハイ。  おやすみなさい、 神父様 」

「 お休み ジョー。 」

ジョーは ノートやら教科書を持って早足で図書室を出てゆく。

「 ・・・ あ  の  リーザ ・・・は 」

「 うん?  なにかまだ話があるのですか?  

「 あ ・・・ いえ。  オヤスミナサイ 」

「 はい お休みなさい。 」

神父様の微笑を見ていると ジョーはどうしてもリーザのことを聞けなかった。

 

 

 

    はあ  はあ  はあ ・・・・  たたたた ・・・・

 

夕闇が迫る中 少年は全速力で駆けてゆく。

華やかな夕陽の残照が きらり、と彼のセピアの髪を照らした。

 

    急がなくちゃ!  また ・・・ 夕食当番に遅れちゃう! 

    でも でも どうしても ― 行ってみなくちゃ!

 

彼はどんどん人通りの少ない地域に入ってゆき、坂道を登る。

「 ・・・ あ   あった ・・・!  」

  ふう 〜〜〜 ・・・・   うっそりと夕闇の中に立つ建物の前で彼は大息をついた。

「 まだ  ・・・ ちゃんと  あった ・・・ 」

まだ少し息を弾ませつつ そっと錆びたアイアン・レースの門扉をおしてみた。

案の定 イヤな音を撒き散らし ソレはほんの少しだけ開いた。

「 うん ・・・ この前と同じだ!  玄関は ・・・ あ あっち!  」

足下はもうあまりよく見えない。  夜の帳がどんどん近づいていきている。

「 ・・・ っと。  このドアだよな〜    なんだ ぼろぼろじゃん? 

 カギは ・・・ 壊れてる?   ―   えいッ !! 」

 

       キキ   キ −−−−−− ・・・・・

 

あの日と同じく、玄関のドアは不機嫌な音とともに開く。

「 ・・・ えっと ・・・玄関入って ・・・ 廊下の少し先 ・・・  あ。 」

彼の足が とまった。

闇の中に ソレはちゃんとあった。  白々とした光があたっているかのように 彼女は いた。

 

「 ・・・ あ ・・・ ああ ・・・ 君、 居てくれたね ・・・ 」

彼はもっとはっきり見たくて 肖像画にへばりつく。

「 ふうん ・・・ 君って。 いっつもキレイだね ・・・ ホコリもくもの巣もなくて さ ・・・

 でも いったい誰なのかい。  以前にここに住んでいたヒト?   ねえ ・・・  」

 

            ―   え  ・・・!?  

 

一瞬ジョーは息を呑み 棒立ちになった。

「 ・・・ う  そ  ・・・だろ?  だって  そんな   だけど! 」 

脚はがくがく震えているのに、 視線をある一点から引き剥がすことができない。

「 ・・・ だって  だって  これ ・・・  リーザ ・・?? 」

彼はだれにともなく ふるえる指である一点を指す。

そこには ―  白い服の少女 の後方片隅に赤毛の幼女の小さな姿が  あった。

「 う  そ   そんな ・・・  」

 

   ガタリ ―  壁の絵が 大きく揺れ彼の方に倒れ込んできた。

 

「 !?  う  わあ〜〜〜〜〜〜〜 ・・・・・・!!!! 」

パニックになり 彼は後も振り返らず一目散にその場から逃げ出した。

 

   うわあ 〜〜〜〜〜〜 ・・・・・・!!  

 

真っ暗な道をどうやって戻ったのか全然記憶はなかった。  

ただ 転けつまろびつ ― 泣き叫ばないようにしっかりと唇を噛み締めひたすら走った。

あとは   どうなったのか誰もしらない。

ジョーが中学に入った年、 町外れの < オバケ屋敷 > は取り壊された。

放課後 こっそり取り壊しの工事を覗きに行ったりしたが あの絵 ― 肖像画は

どこにも見当らなかった。    

  ・・・  そしてあの幼女の姿もそして彼女の記憶も完全に消えて いた。

 

 

 

 ―  10年近くが過ぎたある日 ・・・

セピアの髪をした少年は とんでもない運命の嵐に巻き込まれ とんでもない人生を歩むことになった。

子供の頃にぼんやりと想像していた < 大きくなったら >  は 跡形もなく吹っ飛んだ。

少年 ―  島村ジョーは まったく違う人生を歩まざるをえなくなったのだ。

 赤い特殊な服を纏った ・ サイボーグ戦士 として。

 

 

   ゴ −−−− ・・・・・     輸送機が耳障りなエンジン音を撒き散らす。

 

ヒトを運ぶ という設定は皆無なので < 乗り心地 > への配慮など皆無だ。

実用一点張りのその機内で ―  新入りのほやほや・・・ はじっと見つめている。

 

  ・・・ すぐ横にいる少女の顔を。 

 

殺風景な機内でここだけはぱあ〜っと明るい  ・・・と 彼は一人で納得している。

視線を外さなければ ・・・ とは思うのだが、目が勝手に彼女の方を向いてしまう。

「 ?!  な なに? 」

突然 くるり、 と 少女が振り向いた。  金に輝く髪に縁取られた顔が ― 険しい。

「 あ!  う ううん ・・・ なんでも ・・・ ナイ 」

「 ウソ! ず〜〜〜っとじろじろ見てたじゃない! 」

「 ・・・あ  う うん ごめん ・・・ 」

「 だ〜から  なに?って聞いてるの。 どこかヘン? なにか着いてる? 」

「 あ  ううん ・・・ あの  あ〜〜   似てるんだ。 」

「 へ??? 」

「 うん  そのう ・・・ チビの頃 見た絵と ・・・  

「 ―  絵 ? 」

「 うん。  古い絵だったけど ・・・ ぼくが見つけてタカラモノだった ・・・ 」

「 あなた、 その絵を買ったの? 」

「 まさか ・・・ 子供の頃の話だよ?  でも ・・・ ぼくの思い出の中の宝 さ。 」

「 へえ?? あなた変わっているわね。  国籍はどこ? 

「 ・・・ えっと ・・・ 日本 だけど 」

「 ふうん ・・・ 日本人って み〜んな黒い髪と瞳だって聞いてたけど・・・ 

 いろいろあるのね。 」

「 ・・・ ぁ  うん  ・・・ 」

「 わたし、 絵のモデルなんてしたことないわ。 人違いよ。 」

「 あ ・・・ そうなんだ  ・・・ ごめん 」

「 別に謝らなくてもいいわ。  あなた 名前は?  わたし フランソワーズよ。 」

「 フラン ・・??  あ  ぼ ぼく  ジョー。  島村 ジョー です。 」

「 し・・・ま ・・・ ?  難しいわね?  ジョー って呼んでいい? 」

「 あ  うん!  フラン・・・ えっと? 」

「 フランソワーズ。 」

「 フラン  ソワーズ ・・・さん 」

「 さん はいりません。 」

「 あ ごめん ・・・ 」

「 ごめん  もいりません。   !?  後続隊が来たわ。 やっぱり ね。 

 アルベルト!  来たわ! 」

彼女はコクピットの中央に立つ人物に声をかけた。

「 ふん  やはり な。  おい そこの? 準備はいいか。 」

「 へ? 」

「 お前のことさ、新入り。  ちょいと頑張ってもらうぞ。 」

「 え ・・・ あ ・・ な なにを? 」

「 まあ 最初は見てろ。 」

彼は銀髪をゆらし に・・・っと笑い ―   ジョーの運命はまた新しい展開を始めた。

・・・ そして  肖像画のことは彼の意識の奥の奥にひっそりと仕舞いこまれていった。

 

 

 

 

 

§  すぴか と すばる

 

 

 

  タタタ  ・・・  タ。    角で足がとまった。  しばらくあっち向きこっち眺め・・・

うろうろしている。

「  ・・・ あれえ ・・・ こっちじゃなかったのかなあ〜〜 」

少女は手元のメモをもう一回見直す。

「 ・・・ うん こっちでいいんじゃん?   けど ・・・ そんな建物、見えないよぉ? 

冬の陽射しに金色のお下げがきらり きらり・・・と輝いている。

まだお日様は背中に暖かいけど、もうすぐ冷たい風に変わるんだ・・・

外遊びが好きな少女は そのことをよ〜く知っていた。

「 う〜〜 はやくしなくちゃ〜〜〜  って  でもぉ・・・? 」

彼女はしばらく角でうろうろしていたが やがて うん! と頷くと左の道なりに歩き始めた。

 

 

「 すぴか〜〜 ねえ お願いがあるの。 」

その朝 お母さんはちょっと困った顔で言った。

「 うん なに、 お母さん。 」

「 う〜ん ・・・ あのね ・・・ いえ やっぱりいいわ。 お母さんが自分で行くわ。 」

「 え〜〜〜 お母さんってば〜〜 < やっぱりいいわ >  は  なし〜〜!  」

小学5年の娘は 母に似て耳がいい。 どんな小さな呟きでもちゃんと拾ってしまう。

「 え  あ そうねえ・・・ それじゃ ・・・ お願いします、すぴかさん。 」

「 はあい なんですか〜〜 」

「 あのね  今日 ・・・ 下校したら。  お使いして欲しいの。 ちょっと遠いんだけど・・・

 みなとみらい まで行けるかな。 」

「 行ける! 」

「 まあ 頼もしいわね。  それで ね  ・・・ 可愛い手作りのお店なんかがいろいろ

 ある通りのお店に行って ティアラ を取ってきて欲しいの。 」

「 わ〜〜  お母さん 舞台で使うの?? 」

「 ううん こんどは生徒さんが使うの。  そのお店の方がね、ティアラを作っているの。

 この前 お話しするチャンスがあって・・・ 思わずお願いしちゃったのよ。  」

「 ふうん ・・・ それをとりにゆくの? 」

「 そうなの。  ちょっと修理して欲しいのもあったのね ・・・ 新しくお願いしているティアラも

 三個ほど 頂いてきて欲しいのよ。 」

「 わあ〜〜い♪  行って来る〜〜〜 ♪ わい♪ 」

お出掛け好きの彼女は もう大喜びである。 

「 ごめんね ・・・ 本当に いいの? 」

「 うん♪  みなとみらい地区って 一人でいってみたいな〜〜ってずっと

 思ってたんだもん。 可愛いお店、いっぱいあるよね〜〜 」

「 あ。  寄道や道草 はダメよ?  いい ?  しらないヒトばっかりなんだから。

 地図、書いてあげるけど。 すぐに判ると思うわ。  え〜と ・・・ 」

お母さんはすらすらと簡単な地図を書いてくれた。

「 ・・・・・・ 」

すぴかはだまって渡されたメモを眺めている。

「 ここ?  ・・・ なに屋さんなの?  ティアラ屋さん? 」

「 あ  ここはね、カフェなのよ。  そこのマスターの奥様がね、とても器用な方で

 テイアラをつくったりできるの。 」

「 わ〜〜〜〜 すごい〜〜〜 」

「 けど〜〜 明日は <雨> みたいだよ〜 」

の〜んびり朝御飯を食べていたすばるが口を挟んだ。

「 え?  そうなの?  お母さん 天気予報、よく聞いていなかったわ。 」

「 ぶ〜〜〜〜!! ウソです〜〜〜!  それにね お母さん、 お使いは明日じゃなくて

 今日 でしょ? 」

「 あ そうだったわね。  すばる〜〜 ほら早く食べなさいよ。 」

「 ふぇ〜〜い 」

「 ふ〜ん だ!  お母さん、それじゃ アタシ、行って来るね。 」

「 ありがとう〜〜〜  あ ・・・ でも本当に大丈夫? 電話番号、書いておくから・・・

 もし道に迷っちゃったら電話するのよ。 」

「 だ〜〜いじょうぶ〜〜 だってほら ・・・ ここを曲ったらず〜っとまっすぐ、でしょ? 」

「 そうなんだけど ・・・ 」

「 アタシ、 ほうこうおんち じゃないもん。 誰かさんとちがって〜 」

「 誰かって誰さ。 」

食卓から文句が飛んでくる。

「 さあね〜〜  あ〜っと ・・・ 先に行くよっ!  お母さん、 イッテキマス〜〜 」

「 はい 行ってらっしゃい。  気をつけてね。 」

「 は〜〜い。  すばるっ  あんた また遅刻しないでよ! 」

「 ・・・ 今  行く ・・・  むぐ 」

「 じゃ〜ね〜〜〜  おさき! 」

姉娘は トーストを懸命に口に押し込んでいる弟をおいてきぼりにして颯爽と駆け出していった。

母はあわてて娘を追いかけ 門の所から 大きく手を振って見送った。

「 あらら ・・・ あの調子でずっと走ってゆくのかしら・・・ 凄いスタミナねえ・・・ 若いっていいなあ 〜〜    

すばるっ!  本当に遅刻しますよっ! 」

「 大丈夫だよ。 あと30分あるから、ちゃんと間に合う。 イッテキマス。 」

弟息子は こちらはのんびりいつもと同じペースで 坂道を降りていった。

「 はいはい ・・・ いってらっしゃい。  さて〜〜と。  あとは大仕事がひとつ! 」

母は溜息を吐き  ―   子供達の父親を起こす という大作業に向かった。

 

 

放課後、大急ぎで帰ってきて。 すぴかは地図と手提げを持ってまた出かけた。

「 ふんふん♪ お使い お使い〜〜〜っと 」

最寄駅から電車で大きな駅まで出て ―  みなとみらい地区で降りた。

そして お母さんの書いてくれた地図どおりに歩いてきた  のであるが。

 

「 えっと ・・・ お店 お店 〜〜〜 かふぇ ってお母さん、言ってたけど 〜〜 あれれ? 」

行けども 行けども それらしいお店はなかった。

コンビニとドラッグ・ストア、 そして すぴかでも知ってる大きなチェーン店のコーヒー屋さん・・・

「 う〜〜ん ?? どうしよう・・・でんわ しよっかなあ・・・・ 」

だんだん心細くなってきたとき ・・・

 

   チリ −−−−ン  ・・・ !    なにかキレイな音が聞こえた。

 

「 ??  あれ? 

すぐ前の家からドアが開いて 若い女のヒトが出てきた。 

ありがとうございました〜〜って 声が聞こえ 一緒にふわ〜〜ん・・・といい匂いが流れる。

「 ・・・ あ!  これ!  こーひーの匂い!   ここ ・・・・ ? 」

すぴかは 駆け出してその家の前に立った。 そこには木でできた看板が吊るしてあった。

「 ・・・ かふぇ ・ ら ・ べる    あ  ここだあ〜〜 ! 」

 

ちょっと待っててね、 とそのオバサンはにこにこ・・・言ってお店の方に戻っていった。

やっとみつけたお店で すぴかは大歓迎してもらい、奥のお部屋に案内された。

「 ココアを淹れるわね。  ああ こっちにいろいろあるから見ててね ・・・ 」

「 ハイ。 」

すぴかは ココアはなあ〜〜苦手なんだけど・・・と思ったけど、お行儀よく頷いた。

オバサンはなかなかもどってこなかった。

はじめは大人しくちょこん、と座っていたが すぴかはそろそろと周囲をみまわした。

人影は 見えない。   が  すぴかが入ってきたほうからは ときおり話し声やら 

食器が触れ合うのだろう、澄んだ音が響いてきた。

「 ふう〜ん ・・・ いろいろ・・・ってなんだろ?  み〜ようっと 」

ぽん、とソファから降りると すぴかは部屋の奥へ入ってゆく。

小さな棚があり可愛いお人形とか きらきらビーズのバッグとか 造花が並んでいた。

花模様がびっしりついたカップやら レースひらひらのハンカチ なんかもあった。

「 あ ・・・ ここ ・・・びじゅつかん とか はくぶつかん なのかな〜〜 

 ・・・ へえ 〜〜〜 こ〜ゆ〜バッグ、いつ使うんだろ。  こんなちっこいハンカチ、

 すぐに使えなくなるよね?  ふうん ・・・ お人形ってなんか ぶきみ かも・・・ 」

彼女はいわゆる女の子が好む  かわゆ〜〜いモノ  が あまり好きではない。

当然 興味もないのだ。

「 ナンカ他にないかな・・?  あ ?  この部屋、奥に続くんだ?  ちょっとだけいっかな・・・ 」

< はくぶつかんみたい > な お部屋の隅にカーテンで仕切られた一角があった。

「 そ〜〜っと・・・みちゃえ   ぁ なんだ〜 ここにも絵があ ・・・     え?? 」

カーテンお奥には 一枚の絵画、 かなり大きな絵がかけてあった。

すぴかは その真正面に立ち しげしげと見上げる。 

 

   「  こ  れ  ・・・  !?  ・・・ お母さん? 」

 

すこし煤暈けたその絵の中に 白いドレスの少女が悲し気な視線を漂わせて 居た。

亜麻色の髪に碧い瞳。  口元の雰囲気など、すぴかが見慣れているヒトとそっくりだ。

肩口でカールしている髪の具合とか すっと背筋を伸ばした座り方もそっくり。

 

      ―  けど。

 

しばしすぴかはその大きな絵を間近でじ〜〜っと見詰めていたが やがてぱっと離れた。

「 う〜〜〜〜ん ・・・・??     やっぱ ・・・ ちがうよ! 」

ぶんぶんと首を振る。

「 うん、ちがうもん。  こんな顔、してないや。 

今度は うんうん・・・と一人で頷いている。

「 そうだよね〜  アタシのお母さんはいつもにこにこしてるもん。

 アタシのお母さんはいつだってお父さんと らぶらぶ〜 しあわせ♪ って笑ってるし。

 そりゃ怒れば怖いけど ・・・ でもお母さんの笑顔は最高だもん〜〜〜 」

すぴかはつん・・・と背中をそらせ 手を後ろに組んでもう一度 絵をみた。

「 このコ ・・・ 笑ってないよね。  アタシのお母さん とはちがうもん。

 ね? なにか悲しいことでもあったのかなあ・・・  ね? 笑ってごらんよ。

 きっと ・・・ もっとステキにみえるよ〜〜  」

白い服の少女に すぴかは話しかけてみる。  勿論 絵は返事なんかしてくれないけど ・・・ 

ほんのちょびっとだけ 笑ってくれた・・・ ような気がした。

「 あは ・・・ よ〜かった。  これはねえ お母さんが教えてくれたんだよ〜 あのね〜 」

 

   <  いっしょに 来ない? 

 

すぴかの心に 小さな声が響いた。

「 ???  なに?  だれ?  だれかいるの? 」

きょろきょろ回りをみたけれど この部屋には誰もいない。

 

   <  わたしといっしょに 来ない?  イヤなことは なにもないわ >

 

「 え ・・・?  ・・・ もしかして アナタですか? 」

すぴかはもう一度 絵の前に立った。

「 ???  アタシ、 夢みてたのかなあ・・・  ヘンなの〜〜〜

 ねえ 白い服のお姉さん? 笑っているとね いつの間にか幸せが寄ってくるんだよ。 

 ホントだから〜〜  」

もう あの声は聞こえてこなかった。 

「 アタシ ・・・ 寝ぼけたのかなあ ・・・? 」

 

「 すぴかちゃん? 」

さっきのオバサンの声がきこえる。

「 あ  は〜〜い  ・・・ ごめんなさい、こっち 見てたの。 」

すぴかは慌てて カーテンの奥から出ていった。

「 ああ そこにいたの。  いいのよ、なんでも見てくれて ・・・ 気に入ったもの、あったかしら。

 はい これ。  お母さんにお渡ししてちょうだい。 」

オバサンは四角い箱を三個 すぴかの前に差し出した。

「 はい。 お母さんにわたします。 」

すぴかはとて〜〜〜も真剣は表情で お返事をした。

  −  これはお母さんから頼まれた < お仕事 > なのだから。

「 まあ〜〜 しっかりしているのねえ 偉いわ〜〜 

 すぴかちゃんもバレエ  やってるの? 」

「 あ はい ・・・ でもあんまし上手じゃないです。 」

「 そうなの? でも今にきっとステキなバレリーナになれるわよ。 」

「 は あ ・・・  あの。  おばさん。 聞いてもいいですか? 」

「 あら なあに。 」

「 あのう〜〜 ね このカーテンの向こうの絵 ・・・ あれ、誰ですか。 」 

オバサンは一瞬  え? ・・・って顔をして ちょっと考えこんでいた。

「 ・・・ ああ ・・・あの白い服の少女 ね? 

 あの絵はねえ  この家を買ったときにここの屋根裏で見つけたの。

 少し古い絵なのよ。 」

「 ふ〜ん ・・・ 

「 お店に飾ったこともあるんだけど  その ・・・ちょっと悲しいカンジでしょ?

 気が滅入るって  ・・・あ う〜んと ・・・ いい気持ちになれないっていうお客さんもいて

 外してしまったの。 」

「 ふうん ・・・」

「 すぴかちゃんは あの絵が好き? 」

「 あ  ・・・ ごめんなさい、 あんまし ・・・ 」

「 そうねえ ・・・ キレイな絵なんだけどねえ。 オバサンもすぴかちゃんみたいに

 元気で溌剌としている女の子が好きだわ。 」

「 え えへへへ・・・・ 」

「 お使い、 ご苦労様。  あら ココアはキライ? 」

「 ・・・ あのう〜〜〜 アタシ ・・・ 甘いのって ・・・ 苦手なの。 」

「 まあまあ ごめんなさいね〜 それじゃ あつ〜〜い玄米茶 とか好きかな? 」

「 げんまいちゃ?  あ! あのおせんべいみたいな味のするおちゃ? 」

「 お煎餅?  ええ ええ そうよ。 」

「 すぴか 大好き! ・・・です。 」

「 じゃあ いま持ってくるわね。  ・・・帰りはオバサンが駅まで車で送るから

 安心してね。 」

「 わ〜〜い♪  ・・・あ。  あの あの〜〜 ありがとうゴザイマス。 」

「 うふふ ・・・ 可愛いわあ〜 ちょっと待っててね〜〜 」

「 はあい。 」

 

     ふ〜〜ん ・・・ オモロイおばさんだなあ〜

     えへへへ  げんまいちゃ〜〜〜♪

 

お駄賃よ、とオバサンからかっこいいデニムのポシェットを頂き・・・

すぴかはすっかりご機嫌になり ―  絵の中の少女のことは忘れてしまった。

 

 さよ〜〜なら〜!  と大声で挨拶しぶんぶん手を振って少女はメトロの入り口を

降りていった。

「 バイバイ〜〜  うふふ ・・・ 可愛いなあ〜〜 あの子のママも美人だけど

 可愛いヒトだもんねえ。    あら。 そういえば ・・・あの絵 ・・・ 彼女に似てる・・・? 」

少女を見送りつつ、 < オバサン > はふと気になったが ・・・

「 あ〜〜〜 違うわね。 あの子のママは 笑顔のヒト だもの。 」

さあ 帰らなくちゃ・・・ と 彼女は車を出した。

 

    <  いっしょに 来ない? >    彼女はその声を聞くことはなかった。 

 

 

 

Last updated : 17,12,2013.                         index         /       next

 

 

 

*********   途中ですが

別にミステリーとかじゃないです〜〜

元ネタは物凄く古い 少女漫画。 復刻版で読みました。

例によって 全然009じゃない ですが・・・

一応 平ゼロ設定 なのでジョーがオバケ屋敷に行ったのは

1990年代、という計算 ・・・